完璧にできない自分がつらい日に。完璧主義をゆるめる本4冊

自己肯定感・メンタルケア

人から「完璧主義だね、疲れない?」と言われることがあります。
確かに、そういうところがあるかもしれません。

ちょっとした連絡メールでも、何度も確認してしまいます。

誤字はないか。
敬語に間違いはないか。
添付したファイルは、本当に正しいものか。

そんな些細なことを、何度も確認せずにはいられません。

仕事を終えても、家事を済ませても、「もう少しできたはずだ」という声が消えない夜も多いのです。

「もっと先へ」「もっとできるはず」
そんな焦りが、既にたどりついているはずのゴールを先へ先へと遠ざけているのかもしれません。

それなのに、完璧主義をやめられない。
失敗することを、必要以上に怖がっているのでしょう。
そんな自分にますます嫌気がさします。

完璧主義は心身ともに自分を追い詰めるだけでなく、周囲とのやり取りまで窮屈にしてしまうことがあります。
何とかしたいと思うのですが、肩の力をうまく抜くことができません。

そんな私が、100点に届かなかった夜にページを開く小説を4冊、棚から引き出してきました。

完璧主義をゆるめるおすすめ小説4冊

完璧主義といっても、その形は一つではありません。

自分の不調を許せない完璧主義。
仕事を誰にも渡せない完璧主義。
心の中に浮かぶ感情まで採点してしまう完璧主義。
そして、与えられた役割を完璧に果たそうとして、自分の望みを見失う完璧主義。

ここで挙げる4冊は、それぞれ違う場所で力を抜かせてくれます。

『夜明けのすべて』瀬尾まいこ|不調の自分を責めない

心や体をうまく管理できない自分に、いら立っている人に。
夜明けのすべて

夜明けのすべて
文春文庫
瀬尾まいこ

藤沢さんは月に一度、PMSによって感情を抑えられなくなります。
山添くんは、パニック障害を抱え、以前と同じように働くことができません。

二人は同じ職場で働いていますが、最初はお互いを理解できませんでした。

藤沢さんは、無気力に見える山添くんに腹を立てます。
山添くんも、突然怒り出す藤沢さんが苦手です。

しかしやがて二人は、相手の苦しさを知り、自分の問題は解決できなくても、互いのためにできることはあると気づいていきます。

私は、病気になったり体調を崩したりしたとき、「早く元に戻さなければ」と焦ってしまいます。
休むことで職場に迷惑をかけていると心配したり、自分の管理能力が足りないと責めたり……。
会社を休んでいても、心の中にそんな思いが浮かんでは消えていくのです。

けれど、365日心身が安定している人はいないのではないでしょうか。
睡眠不足の日も、心身の調子が優れない日もあります。
そんな日ですら、元気な日と同じクオリティを追い求めるのは得策ではありません。
75点で終わらせるほうが、結果的には長く走り続けられるのだと思います。

これまで私は、自分の調子を整えられない日は、何とか頑張らなければと、いつもより気合いを入れがちでした。

二人の関係に触れることができて、私の振る舞いも少し変わりました。
気合いを入れる前に周囲を見渡し、しんどさを抱えながら頑張っている人の様子に心を配ることを学べたのです。

温かい飲み物を渡す。
相手が困っていることを、代わりに調べる。
休憩時間に隣に座り、必要以上に踏み込まずにいる。

『夜明けのすべて』が描くのは、不完全な状態のまま、誰かと小さな助けを渡し合う力です。

不調がなくなってから生きるのではなく、不調を抱えた日も、その日の自分として過ごしていこう。

そう考えられたとき、自分を監視し続けていた目が、わずかに緩む……。
そんな経験を与えてくれる物語です。

『舟を編む』三浦しをん|完成を一人で背負わない

仕事を一人で抱え込み、細部まで自分で確認してしまう人に。
舟を編む

舟を編む
光文社文庫
三浦しをん

出版社に勤める馬締光也は、新しい辞書『大渡海』を作る編集部へ迎えられます。
言葉への関心は深くても、人との会話は得意ではありません。
会社という組織で生き残っていくのは難しいのではないかと、ハラハラさせられる部分も多いのです。

それでも彼は、言葉を一つずつ集め、意味を確かめ、辞書に載せる作業には力を発揮します。

馬締は辞書作りの中心人物ですが、すべての言葉を知っているわけではありません。
言葉の意味や編集方針に悩み、立ち止まる登場人物たち。読み進むにつれ、「じっくりと腰を据えて取り組む仕事」に出会えた彼らが羨ましく思えてきます。

「言葉」を扱う辞書には、間違いのない最終回答はあり得ません。
言葉そのものが、時代とともに変わっていくからです。
その時点で集められる言葉を、できる限り正確に次の人へ渡す書物。
それが辞書の役割なのでしょう。

仕事に真面目な人ほど、自分の手を離れた場所で間違いが起きることを恐れるのではないでしょうか。

私などはつい、誰かに任せて失敗するくらいなら、自分でやったほうが早いと考えてしまいます。

しかし、完璧な仕事とは、一人の人間が間違えないことではないのかもしれません。
間違いを見つけた人が直せること。
途中から参加した人が、続きを引き受けられること。
時間がたったあとも、必要に応じて更新できること。

そういう、しなやかなものなのでしょう。

一人で背負わなくても、仕事への誠実さは失われない。
馬締の誠実な働き方に、暗がりの中で月光を反射する池のような明るさを感じました。

また、馬締の静謐な私生活や結婚にも心惹かれるのです。

言葉の定義に執着する馬締が、直感や感性で生きる香具矢と結ばれることで、言葉だけでは割り切れない心の豊かさが伝わってくるシーンが印象的です。

馬締が書いた古風で長いラブレターを、香具矢が何とか受け止めようとする場面。
不器用な馬締の思いが、それでも相手へ届いていくことに、読んでいるこちらの心も救われるようでした。

『フラニーとズーイ』J・D・サリンジャー|正しさから少し離れる

周囲の浅薄さや、自分自身の未熟さを許せなくなっている人に。
フラニーとズーイ

フラニーとズーイ
新潮文庫
J・D・サリンジャー

大学生のフラニーは、周囲の人々が知識や才能を誇示し合う姿に疲れています。

会話の中に自己顕示欲や虚栄を見つける。
俳優の演技に自己満足を感じる。
大学で語られる知性にも、純粋さがないように思える。

彼らのような「偽物」にはなりたくないと嫌悪する一方で、
自分自身の「嘘」や「未熟さ」も許せず、高い理想と完璧主義のあまり心身をすり減らしているフラニー。

不完全な世界に染まらず、精神だけは清潔に保とうともがきます。
しかしその試みが、彼女を少しずつ窒息させていくのです。

苦しむ妹に、兄のズーイが向ける言葉は、優しい慰めではありませんでした。

フラニーが嫌っている人々だけでなく、彼女自身もまた、矛盾や欲望を抱えた一人の人間であることを突きつけます。

ただしそれは、妹を言い負かすためのものではありません。
正しさの中に閉じこもったフラニーを、もう一度、不完全な人々が暮らす世界へ呼び戻すための言葉です。

完璧主義が、生きる姿勢に表れてしまったフラニー。

いつも親切でなければならない。
人を見下してはいけない。
嫉妬してはいけない。
正しい動機で行動しなければならない。

心の中に浮かぶ感情まで採点し始めると、逃げ場がなくなります。

好きになれない人もいるでしょう。
また、平気で人を傷つける相手に対して嫌悪や怒りを消す必要もないと思います。

でも、この世界のどこに完璧な人間がいるでしょうか。
不完全な人間の中に、自分も含まれている。
フラニーが、その事実をすべて受け入れられたのかは分かりません。

ただ、ズーイの言葉を聞いたあと、張りつめていた彼女の心に、ほんの少しだけ隙間が生まれたように感じました。

実家に戻ったフラニーは、久しぶりにぐっすりと眠れたのではないでしょうか。

グラース家サーガの一作である『フラニーとズーイ』は、きょうだいの末っ子フラニーと、そのすぐ上の兄ズーイの物語です。
子どもの頃に二人を導いてくれた長兄シーモアは、もういません。
その不在が、物語の奥にずっと残っているようにも感じます。

サリンジャーの震えるような感受性が伝わってくる、繊細なストーリー。
読後、あたたかいスープを飲みたくなる。そんな作品です。

『日の名残り』カズオ・イシグロ|役割より自分を生きる

期待された役割を果たすことに、人生の多くを使ってきた。そう感じている人におすすめの一冊です。
日の名残り

日の名残り
早川書房
カズオ・イシグロ

執事のスティーブンスは、感情を表に出さず、主人に仕えることを職業上の品格と考えてきたプロフェッショナルです。
とても上品で、執事ではなく、執事を雇う立場にいる人のように見えます。
傍目には、パーフェクトなスティーブンス。

しかし、仕事一筋の彼は、父が倒れたときも、館で開かれている重要な会議を優先しました。
同僚のミス・ケントンと言葉を交わす場面でも、恋愛感情より執事としての態度を守ろうとします。

スティーブンスは頑なに、自分に与えられた仕事をできる限り正確に果たそうとしてきました。
だからこそ、その人生は痛ましく見えます。
完璧に役割を果たそうとするほど、自分が何を感じ、何を望んでいるのかを見失っていくように感じられるのです。

物語の中で、スティーブンスは旅に出ます。
かつての同僚ミス・ケントンを訪ねる道中、これまで仕えてきた主人や、自分が選ばなかった時間を振り返ります。

過去を思い返しても、失われた時間は戻りません。
正しかったと思いたい記憶と、認めたくない疑問が、少しずつ同じ場所に集まってきます。

完璧主義の怖さは、失敗を恐れる息苦しさだけではないのでしょう。
「この役割を正しく果たしていれば、自分の人生も正しいはずだ」と思い込んでしまう恐れがあることを、この物語は教えてくれます。

よい社員。
よい妻。
よい母親。
聞き分けのよい娘。
頼られた仕事を断らない人。

役割を果たせば、周囲からは評価されるかもしれません。

けれど、周囲が求めた自分を演じ続けているうちに、本当に望む人生を生きる時間はさらさらとこぼれ落ちていきます。

『日の名残り』は、今すぐ好きなことをして生きようという教訓の物語ではありません。
選ばなかったものは心に残り続けると、そっと教えてくれる物語です。

ラストシーン、彼が眺める美しい風景が胸を打ちます。

本を読んでも、苦しさが続くときは

完璧主義は、責任感や向上心として評価されることがあります。

そのため、苦しくても「もっと頑張れば解決できる」と考え、自分を追い込みやすい傾向があります。

何度確認しても不安が消えない。
失敗を恐れて、仕事に取りかかれない。
人に任せられず、休む時間がなくなる。
少しのミスで、自分には価値がないと感じる。

そのような状態が続いているなら、誰かと話してみるのも一つの選択肢です。

今すぐ気持ちを吐き出したいときは、気軽に話せる相談へ。

同じ苦しさが何度も戻ってくるときは、じっくり向き合うカウンセリングへ。

当サイトでは、この2つの相談先をまとめています。

本だけでは抱えきれないときの相談先はこちら

どちらが自分に合うか迷う場合は、2つのサービスを比較したページも用意しています。

オンラインカウンセリング比較|本だけでは抱えきれない夜の相談先

つらさが強い場合や、日常生活に支障が出ている場合は、心療内科や精神科などの医療機関へ相談することも考えてみてください。

まとめ|完璧にできない自分を責めないで

完璧にできないことは、努力が足りない証拠ではありません。

人は、自分の感情も、仕事も、人生も、一人では完全に管理できないからです。

  • 苦しい部分があっても、誰かと助け合える:『夜明けのすべて』
  • 仕事の完成を一人で背負わず、次の人へ手渡す:『舟を編む』
  • 心の中まで、正しく清潔であろうとしない:『フラニーとズーイ』
  • 与えられた役割より、自分が望む時間を選ぶ:『日の名残り』

今の自分に近い一冊を、開いてみてください。

本を読む気力がない夜は、ほかの方法で力を抜きましょう。

食事を簡単なもので済ませる。
洗濯物を畳まず、かごに入れたままにする。
返信を明日に回す。

今日の自分にできるところまでで、今日を終えてみてはいかがでしょうか。
いつもは100点を目指していても、75点で完了にしてみるとか……。

完璧主義をゆるめる最初の一歩は、完璧にゆるめようとしないことなのだと思います。

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