夜明け前、まだ夜の領域の早朝の街を歩くのが好きです。
排気ガスや人のざわめきに汚されていないまっさらな朝。
ひんやりとした空気を吸い込むと、体の中が洗い流されるような気持ちになれるから。
その瞬間、自分のことがちょっぴり好きになる。
でも、職場や友人など、他人と過ごす時間の私に対してはどうでしょうか。
そんなとき、私は自分に対してガッカリした気持ちになってしまいます。
なぜなら、うまく立ち回れないから。
私は、もっとそつなくこなせるはず。
大勢の中でもナチュラルに振る舞いたい。
そんな自分の理想像が、いつもガラガラと崩れ落ち、瓦礫の中でひざまづいているのが、
仕事でミスをする私、
引きつった笑顔で上司に対応する私、
なのです。
それを頭上3メートルの位置から眺めているもう一人の私が「あーあ、何やってるんだろう?私ってダメダメじゃないか」と、自分に対して失望の声を上げています。
でも、本当に私はダメダメなのでしょうか?
早朝の街を歩いているときの気持ち。
あのときの、孤独で清々しい心の状態が本来の私なのだ。
実は、そんな風に考えています。
他人の中に放り込まれた私は、集団の価値基準にとまどって右往左往するしかありません。
自分のモノサシとかなり異なっていたからです。
そのうちに、他人の価値基準に合わせて自分のことを判断するようになってしまいました。
その方が、集団の中でうまくやれると知ったからです。
でも、集団の価値基準の使用には、副作用があります。
それが、自己肯定感の激減です。
ダメダメだと自分に失望する日々の中でも、そんな自分を少しだけ面白がる余裕が生まれるかもしれない本を、棚から引き出してきました。
なぜ「自己肯定感」の呪縛に苦しむのか
なぜ私たちは、これほどまでに「自己肯定感」という言葉に振り回されてしまうのでしょうか。
それは、現代社会が「ポジティブであること」を過剰に求めているからなのかもしれません。
「自分に自信がある人=成功者」「自己肯定感が低い人=改善すべき存在」という、目に見えない圧力が空気中に漂っています。
真面目で優しい人ほど、この圧力に敏感です。
「今のままの自分ではいけない」という焦りが、理想と現実のギャップを広げ、その隙間に罪悪感が生まれます。
でも、自己肯定感が低いことは、「能力が低い」こととイコールではありません。
それは多くの場合、他人の感情や場の空気を大切にしすぎるあまり、自分自身の輪郭が曖昧になっている状態といえます。
今回は、そんなあなたの心を守るための「具体的な動作」と「思考の枠組み」を、3冊の実用書から紐解いていきます。
自分を責める手を止める、4つの処方箋
処方箋①:「これは誰の課題?」と心の中で呟く
『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健
「他人の機嫌を取る人生」をやめるために、自分との境界線の作り方を教えてくれる自己啓発書。
🔖【処方箋】
何か問題が起きた時、あるいは頼まれごとをされた時、即答せずに心の中でこう呟いてください。「これは誰の課題か?」
💭【なぜ効くのか】
コントロールできない「相手の評価」まで背負い込むから、心が折れます。
自分の課題だけに集中することで、無駄な感情の消耗を劇的に減らせます。
📖【この本をおすすめする理由】
頼まれごとをされた時、反射的に「イエス」と言っていませんか?
あるいは、上司の機嫌が悪いのは自分のせいだと怯えていませんか?
アドラー心理学の対話篇である本書は、このような人間関係の悩みを一刀両断にします。
その核心にあるのが「課題の分離」です。
例えば、上司があなたの提案をどう評価するかは、上司が決めることです。
あなたにできるのは「きちんと準備をして提案すること」だけ。
上司が文句を言おうが褒めようが、それはあなたの課題ではありません。
だから、くよくよ悩むだけ無駄なのです。
冷たく感じるかもしれませんが、この境界線を引くことで、自分を責める理由の大半が消え去ります。
処方箋②:壁を透明化するために「最後まで聞く」
『バカの壁』養老孟司 著
人は自分の脳に入るものしか理解できず、その見えない「壁」が他者理解とコミュニケーションを妨げていることを考察した本。
🔖【処方箋】
- 相手の話を遮らず、最後まで聞いてください。
「それは違う」と思っても、まずは「そう考えているんだね」といったん受け入れましょう。 - 同意する必要はありません。ただ「受け入れる」だけでいいのです。
💭【なぜ効くのか】
「わかってほしい」という気持ちが強すぎると、相手を説得しようとして衝突します。
このワンクッションが、無用な衝突による自己嫌悪を防ぎます。
📖【この本をおすすめする理由】
「あの人とは話が通じない」と悩む時、私たちは自分の正しさを主張したくなっています。
しかし、その「わかってほしい」という気持ちこそが、自己肯定感を揺るがす原因かもしれません。
上司など目上の人の話は傾聴するのに、部下や家族、友人など甘えられる相手の話は、無意識に横取りしていませんか?
養老孟司が説く「バカの壁」とは、人と人の間にある「理解の限界」です。
完全に理解し合えないことを前提にすれば、無理に説得する必要もなくなります。
処方箋③:脳を騙す「瞬発型」アクション
『自己肯定感の教科書』中島輝 著
ありのままの自分を「これでいい」と受け入れるための、具体的かつ実践的な心の修復技法。
🔖【処方箋】
気分が落ち込んだ瞬間に、以下のいずれかを試してください。
- 「ヤッター!」ポーズ:両こぶしを突き上げて体を伸ばす(10秒)
- セルフハグ:自分で自分を抱きしめる
- 鏡の中の自分に「大丈夫」と声をかける
💭【なぜ効くのか】
脳は意外と単純で、体の動きに引っ張られて感情を変化させます。
思考を変えるより、体を動かす方が即効性があります。
📖【この本をおすすめする理由】
思考を変えるのが難しい時は、体からアプローチするのが近道です。
「こんなことで?」と思うような小さなアクションが、脳内のスイッチを切り替え、「なんとかなるかも」という感覚を取り戻させてくれます。
これらはスモールステップですが、即効性があります。
中島輝氏が提唱する自己肯定感の回復法は、心理学と脳科学の両面から裏付けられた、実践的なメソッドです。
処方箋④:世間の基準から降りる
実用書の処方箋とは異なる、もうひとつの選択肢があります。
『贅沢貧乏』森茉莉 著
もし、実用書のメソッドを試しても「やっぱり自分には価値がない」と感じてしまうなら、一度「効率」や「正解」の世界から離れてみましょう。
文豪・森鷗外の娘でありながら、晩年をアパートの一室で過ごした森茉莉。
客観的に見れば、彼女の生活は「没落」そのものでした。
お金はなく、着るものは古びていく。
しかし、彼女は自分を一切憐れみません。
むしろ、誰よりも贅沢に生きています。
色調のグラデーションにこだわってタオルを干し、お気に入りの紅茶を淹れ、わずかなチョコレートを囓りながら、その空間を「マリアの部屋」と呼びます。
森茉莉の美学の根底にあるのは、「他人との比較」からの完全な解放です。
世間一般で言われる「贅沢」はお金がかかるものですが、彼女にとっての贅沢とは「金額の多寡」ではありません。
「人がどう思うか」ではなく、「自分がどう感じるか」。
彼女が大切にしたのは、自分の心が美しいと感じる色、形、味わいだけでした。
色褪せたタオルであっても、そのグラデーションが美しいと感じれば、彼女にとってそれは宝石以上の価値を持ちます。
「世間的に価値があるもの」ではなく、「自分の心が震えるもの」を選ぶ。
自己肯定感が低い私たちは、つい「条件付き」で自分を愛そうとします。
けれど、森茉莉の文章は教えてくれます。
世間の基準から外れていても、あなたが「好き」だと感じるその感覚さえあれば、人生は十分に高貴で、贅沢なものになり得るのだと。
本だけで抱えきれないときは
本を読んで気持ちを整えられる夜もあります。
けれど、職場のしんどさが日々積み重なっているときは、読むこと自体が負担になることもあります。
読書によって思考や行動を変えることで楽になる部分は確かにありますが、環境そのものが今のあなたに合っていない可能性もあります。
無理に変わろうとする前に、専門家の力を借りるのも選択肢のひとつです。
エキサイトお悩み相談室のオンラインカウンセリングは、
・誰にも言えない辛い悩みがあるとき
・理由ははっきりしないけれど眠れないとき
・誰かにただ話を聞いてもらいたいとき
24時間365日、電話で相談できます。
まとめ
自己肯定感を高める本は数多くありますが、今回は「頑張らなくてもいい」という視点をくれる本に絞りました。
自己肯定感は、無理に高く維持し続ける必要はありません。
低い時があってもいい。
ただ、その苦しさに飲み込まれないための手段を、一つだけ持っておけば十分です。
- 『嫌われる勇気』で課題を分離し、他人の荷物を下ろす
- 『バカの壁』から、「わかり合えなくていい」と知る
- 『自己肯定感の教科書』で、脳のモードを切り替える
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