仕事のモチベーションが落ちた夜に。心を立て直す小説4選

夕焼けの窓と暗い部屋を背景に「仕事のモチベーションが落ちた夜に。心を立て直す小説4選」と表示した画像 職場の人間関係

残業帰りの電車の中で、窓の外を流れる光を眺めていた。
駅のホーム、コンビニの看板、マンションの灯り。
それらが流れ過ぎていくのを、ぼんやりと見ていた。

仕事の中身を思い返そうとしたが、何も浮かばなかった。
やったことは確かにあるはずなのに、何かを達成した感触が、どこにもない。
疲れているのかとも思ったが、それとも少し違う。

もっと根っこのところで、何かが抜け落ちている感覚があった。

モチベーションという言葉は、どこかうさんくさい。
「上げる方法」「維持するコツ」。
そんな言葉がネット上に溢れているけれど、それを読めば読むほど、自分の空洞が際立つような気がする。

やる気が戻らないのではなく、「何のために働いていたのか」が手元から滑り落ち、心の中に空洞だけが残っている。

そういう夜に、ページを開きたい物語。
お説教や精神論ではなく、働くことの意味を、自分の目線でとらえ直した人たちの話を。
夜の灯りのかたわらで、登場人物たちと同じように途方に暮れながら、それでも大地を踏みしめて働く姿がそこにある。

処方箋①:『つむじ風食堂の夜』吉田篤弘|答えを出さなくていい夜

舞台は、とある街の路地裏にある小さな食堂です。
閉店後の静けさの中に、さまざまな人が集まってきます。
大きな事件は起きません。
怒鳴り声も、競争も、評価もありません。

ただ、夜の食堂に灯りがともり、人々がそこに存在します。

この小説には、モチベーションの話が一切出てきません。
そこが私は好きなのです。
疲れた夜に必要なのは答えの押しつけではなく、問いごと受け取ってくれる場所だからです。

吉田篤弘の「夜」は、とても静かです。
静寂の中で、登場人物たちはそれぞれの小さな問いを持ち寄ります。
「私は、何をしている人間なのだろう」と。

食堂の灯りは、「答えを出せ」と急かしません。
その無言の肯定が、ほんのりと胸を温めてくれます。

眠れない夜はスマホを遠ざけて、この本を開いてみてください。
200ページ弱と、時間をかけずに読めますが、子どもの頃に読んだ童話のように何度も読み返したくなります。
読み終えたときに、胸の中のどこかに、小さな余白が生まれているのを感じることでしょう。

つむじ風食堂の夜

つむじ風食堂の夜
ちくま文庫
吉田 篤弘

処方箋②:『神去なあなあ日常』三浦しをん|別の速度で、息をする

「なあなあ」とは、神去村の言葉で「まあ、ゆっくりやろうよ」という意味だそうです。

都会育ちの主人公・勇気は、ひょんなことから三重県の山奥で林業に従事することになります。
最初は逃げることしか考えていなかった彼が、山の時間の中で、少しずつ変わっていきます。

林業は、一本の木が育つのに何十年もかかる雄大な時間と向き合わざるを得ない仕事です。

自分が植えた木の成長を、見届けられないかもしれません。 それでも、植えるしかないのです。

「成果が見えなければ意味がない」という価値観が、この村の前では滑稽に思えてきます。

仕事のモチベーションを「上げよう」としているとき、人は無意識に、今の仕事の枠の中で答えを探そうとしているのではないでしょうか。
でも、この小説はその枠ごと、外に連れ出してくれます。

自分のペースが「遅すぎる」のではなく、世界の速度が「速すぎる」のかもしれない。
そう気づいたとき、肩の力が少し抜けて、呼吸が楽になります。

笑えるし、泣けます。
主人公を取り巻く人々も個性的で、それぞれに著者の人生観が秘められているように感じます。
筆致も重くなりすぎず、それもまた、疲れた夜に優しい小説なのです。

神去なあなあ日常

神去なあなあ日常
徳間文庫
三浦 しをん

処方箋③:『ちょっと今から仕事やめてくる』北川恵海|「やめていい」が先にある

主人公は、ブラック企業でボロボロになるまで働き続けているサラリーマンです。
ある日、見知らぬ男に「死ぬつもりやったやろ」と声をかけられます。

この物語が描くのは、「仕事を辞める勇気」ではありません。
「消えてしまいたいほど追い詰められた人間が、それでも生きることを選ぶ」過程を描いています。

「辞めたい」と思いながら、それを打ち消して眠る夜が続いているなら、まず、この本のタイトルを声に出してみませんか。
「ちょっと今から仕事やめてくる」と。

「辞めたい」という感情を、多くの人は封印してしまいます。
でも感情に名前をつけるだけで、ほんの少し、客観視ができるようになります。

モチベーションが消えることと、消えてしまいたいほど苦しいこととは、全く違います。
でも、前者が長く続くと、後者に近づいていくことがあります。

この本は、その境界線のすぐそばに立つ、レスキュー隊員のような存在です。
「やめていい」という言葉は逃げではなく、自分を守るための最初の一手だと呼びかけてくれます。

自分でも手が届かないほど深い場所が疲弊しているなら、この物語が、今のあなたに必要かもしれません。

ちょっと今から仕事やめてくる

ちょっと今から仕事やめてくる
メディアワークス文庫
北川 恵海

処方箋④:『わたし、定時で帰ります。』朱野帰子|帰る理由を、持ち直す

主人公の結衣は、定時退社を信条とする会社員です。
周囲の「働き方」とぶつかりながらも、自分の軸をぶらしません。

この小説が問うているのは、
「仕事以外の何かを、自分の中に残しておけているか」です。
決して、「仕事への情熱をどう取り戻すか」ではありません。

仕事が生活の「全て」に浸食し始めたとき、モチベーションが消えていきます。

仕事の外に何もない状態で、仕事に意味を求めようとしても、それは空回りするだけです。

結衣が定時で帰る先には、彼女の「仕事ではない時間」があります。
その時間があるから、彼女は翌朝また職場に戻ってこられるのです。

「帰る理由を持つ」こと。
それがモチベーションを取り戻す前段階として、実は最も必要なことかもしれません。

今夜、定時で帰ってみませんか。
理由もなくてもいいのです。
「仕事の外にも、自分がいる」と確認するだけで、仕事への向き合い方が、少し変わることがあります。

わたし、定時で帰ります。

わたし、定時で帰ります。
新潮文庫
朱野 帰子

本だけで抱えきれないときは

本を読む気力さえ湧かないとき、それは心が休息を求めているサインかもしれません。

物語の中に答えを探す前に、誰かに話を聞いてもらうだけで、心の荷物が驚くほど軽くなることがあります。

無理に変わろうとしなくていいのです。
「疲れている」の一言だけでもいいから、声に出してみる。

オンラインカウンセリング「Kimochi」は、公認心理師にオンラインで相談できるサービスです。
初回は2,980円で利用でき、自宅から夜でも相談できます。
「仕事を辞めたいわけじゃないけど、しんどい」という、言語化しにくい疲れにも、誠実に向き合ってくれます。


まとめ

仕事のモチベーションが落ちた夜に必要なのは、
「やる気の出し方」ではなく、
「なぜ消えたのかを、ゆっくりと眺める時間」かもしれません。

・夜の静けさの中で、問いを持ち寄る場所へ。『つむじ風食堂の夜』
・別の時間軸で生きる人たちの中で、息を整える。『神去なあなあ日常』
・「やめていい」という言葉を、自分に許す。『ちょっと今から仕事やめてくる』
・仕事の外に、自分を取り戻す。『わたし、定時で帰ります。』

どれか一冊が、あなたを静かな場所へと案内してくれますように。

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