もう限界だ。仕事を辞めたい。
その言葉が頭をぐるぐる回ることがあります。
上司の言い方に傷ついた日。
先輩とのやりとりに気力を削られた日。
人間関係に大きな問題はなくても、その会社の空気そのものが合わないと感じる日。
残業や休日出勤が続き、生活が仕事に飲み込まれていく日。
辞めたい理由は、ひとつではありません。
けれど、どの場合にも共通しているのは、自分が少しずつ摩耗している感覚ではないでしょうか。
努力しても報われた気がしない。
働いているのに、自分の人生が前へ進んでいる実感が持てない。時間だけが過ぎていき、自分だけが置いていかれるように思える。
そんな徒労感です。
とはいえ、辞めればすべて解決する、と簡単に言い切れるものでもありません。
生活のこと、仕事の引き継ぎ、次の仕事への不安。
いろいろな事情が絡み合って、「もう無理」と「でも辞められない」のあいだで立ち止まってしまう夜もあります。
そんなとき、正論はあまり役に立ちません。
必要なのは、自分の痛みを感じ取ることです。
小説は、ときにその手がかりになります。
物語の中の誰かに触れた瞬間、言葉にできなかった痛みや違和感が見えてくることがあるからです。
この記事では、仕事を辞めたい夜に読みたい小説を5冊紹介します。
働くことに疲れた心に触れる物語を選びました。
※注意:この記事は退職・転職を一方的にすすめるものではありません。
体調不良やハラスメントなど切迫した状況にある場合は、専門機関や信頼できる人への相談も検討してください。
仕事を辞めたい夜に、小説ができること
夜にあれこれ悩むのは、心にも体にも負担がかかります。
それでも、仕事のことが頭から離れない夜があります。
ここでおすすめする小説も、すぐに現状を打破する武器にはならないかもしれません。
けれど、自分の痛みを見失わないための灯りにはなります。
本を開くことで、少なくとも次の3つは起こります。
・「辞めたい」と思う自分をジャッジせず、そのまま受け止められる。
・今いる会社とは違う価値観や生き方に触れ、「この場所だけが世界のすべてではない」と思える。
・感情の嵐が少しおさまったあとで、「本当は何がつらいのか」「本当はどうしたいのか」を考え直せる
ここで紹介する5冊は、笑いたい夜、休みたい夜、気持ちが押しつぶされそうな夜、自分の働き方を見直したい夜に、それぞれ違う角度から応えてくれる物語です。
『店長がバカすぎて』早見和真|理不尽を笑いに変えたい夜に
職場ストレスを、まずは笑いに変えたい夜におすすめなのが、この一冊。
武蔵野の書店で働く契約社員・吉岡の視点から、「バカすぎる店長」やクセだらけの同僚、お客さんとの日々がコミカルに描かれます。
ブラック企業のようなハードさとは少し違うけれど、「なんで私だけこんな目に……」とツッコミたくなる理不尽の連続。
読んでいるうちに、「うちの職場も大概だけど、こっちもなかなかだな」と、肩の力が抜けていきます。
「仕事がつらい」と検索して、いきなり重たい自己啓発書を開くのはしんどい夜もあります。
私は転職サイトの「まずは、あなたのスキルや経歴をリストアップしましょう」とのアドバイスに何も思いつかず、愕然としたことがありました。
疲れ果てて元気がないときは、まずこの本で「あるある……!」と笑って、気持ちをほぐすところから始めてみてください。
『木曜日にはココアを』青山美智子|心を休ませたい夜に
「もうがんばれって言葉を受け取る余裕すらない」
「今日はただ、気持ちを休ませたい」
そんな夜に手に取りたいのが、喫茶店「マーブル・カフェ」をめぐる連作短編集『木曜日にはココアを』です。
仕事や家庭、人間関係に少し疲れた人たちが、「木曜日のココア」や小さな偶然をきっかけに、少しだけ前を向けるようになる物語。
派手な展開は起きないけれど、読み終えたときに「世界はまだ、完全に捨てたものではないかもしれない」と思える余韻が残ります。
仕事のことを真っ向から考える前に、「何もせずに心を回復させる日」を作ってみませんか。
そのためのささやかな処方箋として、この一冊をベッドサイドに置いておくと、いつでも物語の世界に逃げ込めます。
『夏物語』川上未映子|このまま働き続けていいのか迷う夜に
「ちゃんとした働き方ができていない気がする」
「レールから外れた自分が不安」
揺らぐ心に深く共鳴してくれるのが、川上未映子の長編『夏物語』です。
非正規雇用や経済的不安を抱えながら、それでも自分の人生を選ぼうともがく女性が描かれています。
「いい大学→いい会社→安定」という一本道から外れたときの孤独や、社会からの目線があまりにもリアルに迫ってきます。
今の仕事がしんどくて、「でも辞めたら人生終わりなのでは」と怖くなるときに力づけてくれる物語です。
「外れること」を失敗とみなさず、「そこからどうやって自分の人生を紡いでいくか」という視点を差し出してくれます。
『水を縫う』寺地はるな|明日のことなんて考えたくない夜に
明日の仕事のことを考えるだけで胃が痛くなる。
そんな夜にふさわしいのが、寺地はるなの『水を縫う』です。
主人公は、家族の中で「家事が得意な長男」という立ち位置にいる青年。
彼と家族、周囲の人たちの日常が穏やかな筆致で描かれながら、「男だから」「女だから」「ちゃんと働いて一人前」といった、目に見えない期待や役割から少しずつ解放されていく物語です。
社会人として「こうあるべき」という圧に息苦しさを感じている読者に、「日々働いてるだけで十分えらい」とそっと囁いてくれます。
登場人物たちのささやかな選択や気づきが積み重なり、読み終わるころには、「もう少し自分に優しくしてあげよう」と思わされたりして……。
この先ずっとこの働き方でいいのかな。
でも、明日のことを考える気力もない。
という夜に、未来を変える前に、まず「今の自分を否定しない感覚」を取り戻す力を与えてくれます。
章ごとに区切られた連作短編に近い構成なので、寝る前の短い時間にも少しずつ読み進めやすいのもおすすめポイントです。
『書店員の恋』梅田みか|仕事は好きなのに、このままでいいのか揺れる夜に
「今の仕事は嫌いじゃない。でも、一生続ける仕事だとも感じられない」
そんなもやもやを抱えている人におすすめなのが、梅田みかの『書店員の恋』です。
主人公は、書店で働く女性。
本に囲まれた仕事にやりがいを感じながらも、恋愛や将来への不安のなかで、少しずつ心が揺れていきます。
この小説は、仕事が苦痛な人よりも、「仕事は好き。でも、生活や将来を考えると、このままでいいとは言い切れない」という人の心に響くと思います。
好きな仕事をしているはずなのに、不安が消えない。
やりがいだけでは越えられない現実がある。
恋愛や暮らしの問題まで重なって、気持ちの置き場がなくなる。
そうした揺れが描かれています。
「辞めたい」という気持ちの中には、職場のつらさだけでありません。
たとえ、好きなことを仕事にしたとしても、報われない苦しさが混じっていると思うのです。
この小説は、そんな割り切れなさを見つめていきます。
今の仕事を手放すべきかどうか、まだ決められない。
でも、このまま働き続ける未来にも少し息苦しさがある。
そんな夜に読むと、言葉にできない迷いの輪郭が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
本だけで抱えきれないときは
仕事のことを考えるだけで胸が詰まる。
本を開いても文字が入ってこない。
そんな状態なら、今は読むことより、休むことや話す方が先決かもしれません。
現実からいったん離れ、本の世界に触れることで気持ちが楽になる。
それも、小説が持つ力のひとつです。
でも、それすらできないほど疲れているなら、いったんページを閉じましょう。
そして、胸の中のもやもやを少しだけ言葉にして吐き出してみてください。
友人や家族には話しにくいなら、オンラインの相談サービスを使うのもひとつの方法です。
本では届かないところを、誰かとの対話が補ってくれることもあるでしょう。
自宅から利用できるので、外へ出る気力がない夜でも、気持ちを整理するきっかけになります。
ひとりで抱えきれないと感じたら、「読む」以外の手段も選択肢に入れてみてください。
本も読めないほどつらい方へ
スマホで相談できるサービスの解説記事はこちら。
本ではなく専門家に頼るという選択
まとめ
仕事を辞めるかどうかは、人生の大きな選択です。
疲れきった夜に、ひとりで決めてしまうには、大きすぎるテーマでもあります。
今夜は、次の3つだけ、心がけてみませんか。
1. いまの自分の状態に一番近い一冊を選んで、寝る前の30分だけ読む。
2. 読みながら、「どの登場人物/どの一節が心に残ったか」を、スマホやノートにメモしておく。
3. 数日おいて気持ちが少し落ち着いたら、そのメモを読み返しながら、「自分は何から一番逃げたいのか」「本当はどう生きたいのか」を言葉にしてみる。
誰でも、「仕事を辞めたい」と思う日があります。
それは、今の環境や働き方とあなたの波長が合わなくなっているからかもしれません。
そのサインを見過ごさず、物語の力も借りながら、自分のペースで次の一歩を考えてみる。
そのための時間を持ってみてはいかがでしょうか。
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