リモートワークで誰とも話さない夜に|働く孤独の処方箋

ソファでパソコン作業をする女性 職場の人間関係

夜の部屋は、思っている以上に静かです。

昼間はそれなりに忙しかったはずなのに、
ふと気づくと、今日は誰とも声を交わしていない。
「おはよう」も「お疲れさま」もない一日。

Slackの通知音だけが、人の気配の代わりになる。

リモートワークは、効率的で快適なはずでした。
満員電車もない。無駄な雑談もない。
それなのに、なぜか胸の奥が少しだけ冷えている。

そんな瞬間に、孤独はふいに顔を出します。
その孤独を無理に消すのではなく、その代わりに、孤独の輪郭をそっと抱きしめるような物語を紹介します。

誰とも話さなかった夜に、そっと開ける四冊です。

処方箋①:『ひとり日和』青山七恵|ひとりの生活を丁寧に観察する

20歳の知寿と、71歳の吟子さん。
年の離れた二人の同居生活を描いた芥川賞受賞作です。

私は、孤独を楽しむ吟子さんの暮らしぶりが好きです。

庭の草取りをしたり、新しくできたスーパーで風船をもらってきたり。
ささやかな日常を、面白がって過ごしています。

吟子さんは言います。
「世界に外も中もないのよ」

遠くへ行かなくても、今いる場所もちゃんと世界。
その視点が胸に残ります。

吟子さんは面倒見のいいおばあちゃんではありません。
知寿に干渉せず、同じ家で淡々と暮らすだけです。

それでも、二人の世界はつながっている。その距離感が心地よく感じられます。

会社に出勤すれば孤独は消えるのでしょうか。

答えは、きっとノーです。

自分の立ち位置を保てなければ、人の多い場所でも孤独は続きます。
逆に、自分のペースを持てれば、どこで働いても世界は閉じません。

リモートワークの夜にこそ、何気ない生活の解像度の高さが、心に効いてきます。

ひとり日和

ひとり日和
河出文庫
青山 七恵

処方箋②:『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子|「存在していい」をという感覚を取り戻す

主人公は、校閲者として働く冬子。
彼女が真夜中の光のようなささやかな恋と出会い、自分の孤独や生き方と向き合っていく物語です。

冬子は、自分の感情を伝えるのが苦手で、不器用なあまり人とぶつかってしまうこともある女性です。
孤独感を抱えながら、そのことにコンプレックスも感じています。

物語に登場する冬子も三束さんも聖も、それぞれに孤独を抱えていて、みんなどこか一人で切ない。その空気が、物語全体に漂っています。

そんな冬子の暗さをそっと照らしてくれるのが、三束さんという謎めいた人物です。どこかつかみ所がなく、あやふやでもある。けれどその曖昧さが、この物語に陰影を与えています。

川上未映子の描く孤独は、騒がしくありません。怒りも叫びもなく、ただ静かに存在しています。

タイトルにあるように、孤独には「真夜中」がよく似合います。
それは社会の昼の光からこぼれ落ちた人たちの時間であり、冬子が安心して呼吸できる世界として描かれています。

リモートワークでふと浮かぶ問い。
「私はちゃんと存在できているのだろうか」

この小説は、その問いに静かにうなずいてくれます。
夜の読書に、とてもよく合う一冊です。

すべて真夜中の恋人たち

すべて真夜中の恋人たち
講談社文庫
川上 未映子

処方箋③:『モモ』ミヒャエル・エンデ|奪われた時間を取り戻す

子どもの物語に見えて、 実は大人の「時間の搾取」を描いた寓話です。

廃墟の円形劇場に住む孤児のモモは、人の話を聞く力を持つ、不思議な少女。
のんびり楽しく暮らしていた彼女たちの前に、音もなく現れるのが「灰色の男たち」です。

彼らは人間から「生きた時間」を盗み、効率化を勧めます。

その結果、人々はゆとりを失い、心の花を凍らせていきます。

私たちの日常が、そのまま映し出されているようで、読んでいてドキリとします。
タイパやコスパを優先する現代社会への、静かな警鐘のような物語です。

子どもの頃に読んだことのある方も多いかもしれません。大人になってから読むと、全く違う本に見えます。

通知に追われ、タスク管理に縛られる私たちの姿が重なります。

この物語でもう一人、忘れられない人物がいます。道路掃除夫のベッポです。

物事をじっくり考えてから話すので、周囲からは「のろま」と誤解されがちですが、誠実で思慮深い人物です。

彼はこう語ります。

いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?次の一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ

『モモ』ミヒャエル・エンデ作・大島かおり訳

先の不安ではなく、今の一歩に集中する。
その姿勢は、リモートワークで消耗する心にも効きます。

モモ

モモ
岩波少年文庫
ミヒャエル・エンデ

処方箋④:『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』古内一絵|

夜だけ開く小さなカフェ。
店主も、ここに訪れる人も、それぞれ事情を抱えています。

この物語の中心にいるのは、店主シャール。
ぜひ物語の中で出会ってみてください。
派手な外見とは裏腹に、まっすぐで、厳しく、そして温かい人です。

相手の「足りなさ」や「弱さ」を否定せず、優しく抱き留めた上で「自分の荷物は自分で持ちなさい」と、自分の人生を受け止める覚悟を促してくれます。

その包容力のあるまなざしが、体に優しい夜食とともに、読む者の中にしみこんでいきます。

読んでいると、
自分にも、こんな場所があったらと思います

この物語は、「居場所は、必ずしも現実の空間でなくていい」と教えてくれます。

誰とも話さなかった夜に、この店のドアを開けてみてください。

物語の中に、あなた専用の席が用意されています。

マカン・マラン

マカン・マラン
中公文庫
古内 一絵

本だけで抱えきれないときは

孤独が心を占領して、本を開く気力さえ湧かない夜もあります。
そのときは、本だけに頼らなくていいのです。

リモートワークの孤独は、「誰かと話す場所がない」という構造的な問題でもあります。
話す相手を持つことを、自分に許してください。

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まとめ

誰とも話さなかった一日は、失敗ではありません。
ただ静かだっただけです。
その静けさの中に、自分が確かにいました。

『ひとり日和』で生活の細部を取り戻す。
『すべて真夜中の恋人たち』で存在の輪郭に触れる。
『モモ』で自分の時間を受け取り直す。
『マカン・マラン』で夜の居場所を持つ。

リモートワークの孤独は、
自分の輪郭が少し揺らぐ感覚に近いのかもしれません。
そこに、ほかの孤独とは違う静けさがあります。

物語は、その輪郭がふたたび浮かび上がる瞬間を思い出させてくれます。

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