職場の人間関係に疲れたあなたへ|心が軽くなるおすすめ本3選+小説1選

職場の人間関係

日曜の夜が怖かった頃の話

月曜の朝、会社のエレベーターで上司と二人きりになる。それだけのことが、どうしようもなく怖かった時期がありました。

きっかけは些細なことです。会議で上司に意見を否定されてから、その人の視線、声のトーン、机に書類を置く音、それらのすべてが自分に向けられた攻撃のように感じるようになってしまいましたて。

それをきっかけに、先輩や同僚の表情にさえも怯えるほど、神経が過敏になってしまいました。

昼休みは一人になれる場所を探してフロアを彷徨い、給湯室で誰かの笑い声が聞こえると「自分の悪口かもしれない」と身構える。帰り道、同僚に言われた何気ない一言を頭の中で何十回も再生して、気づけば最寄り駅を乗り過ごしていました。

日曜の夕方になると、胃のあたりがじわっと重くなります。「サザエさん症候群」なんて軽い名前がついているけれど、当事者にとっては笑い話ではありません。「明日、またあの空間に行かなければならない」。それだけで呼吸が浅くなる。

辞めたいと何度も思いました。でも辞められない。生活がある。「もう会社に行きたくない、でも辞められない」――この板挟みの中でもがいていました。

あの頃の私を変えたのは、転職でも、誰かの励ましでもありません。何冊かの本を読むうちに、職場の人間関係の受け止め方が少しだけ変わった。それだけのことです。でも、同じ職場なのに、息のしやすさがまるで違いました。

今日は、その「受け止め方」を変えてくれた本をご紹介します。以前の記事では「自分の中の自己否定」に目を向けましたが、今回は「他人との関係」という外からのストレスから心を守るための本を選びました。

なぜ職場の人間関係はこんなに消耗するのか

そもそも、なぜ職場の人間関係はこれほどまでに私たちを疲れさせるのでしょうか。友人関係や家族とは違う、職場特有の「構造」がそこにはあります。

第一に、「選べない」こと。友人や恋人なら合わなければ距離を置けますが、職場では相性が最悪な相手とも毎日8時間以上、顔を突き合わせなければなりません。

第二に、「逃げられない」こと。生活の糧を得る場所である以上、嫌だからといってすぐに逃げ出すことができません。この閉塞感がストレスを増幅させます。

第三に、「評価される」こと。ただの人間関係ではなく、相手(特に上司)の感情や評価が、自分の給料やキャリア、ひいては生活そのものに直結するというプレッシャーがあります。

選べない。逃げられない。評価される。この三重構造の中に置かれれば、誰だって消耗します。

しかし、この苦しさの大部分は、実は「自分の頭の中」で起きているだけの実態のない事柄なのかもしれません。嫌なことを言われた事実そのものより、それを何十回も頭の中で再生し続けることの方が、ずっと自分を傷つけている。そのからくりに気づかせてくれたのが、次の3冊でした。

“気にしすぎ”を手放すための3冊

1.『集中力はいらない』森博嗣

「集中しなくていい」——このタイトルを書店で見たとき、正直、意味がわかりませんでした。仕事でもなんでも、集中することが正しいとずっと思っていたからです。

ミステリ作家であり工学博士でもある森博嗣さんの主張はシンプルです。ひとつのことに集中しすぎるから苦しくなる。むしろ意識を分散させた方がうまくいく。集中の対義語は「分散」であり、分散は怠惰ではなく戦略だ、と。

これを読んだとき、自分が職場でやっていたことの正体がわかりました。上司に言われた嫌味を、昼休みも、帰りの電車の中も、夕飯を食べているときも、ずっと頭の中で再生し続けていた。つまり、嫌な人に過剰に「集中」していたのです。

この本を読んでから、嫌なことが頭に浮かんだとき、意識的に別のことに注意を向けるようにしました。本を開く、音楽をかける、まったく関係のない動画を見る。大げさなことではありません。ただ、嫌な相手に自分の時間を「集中」させるのをやめただけです。それだけで、驚くほど楽になりました。

職場の特定の人のことが頭から離れない人、仕事中も帰宅後も人間関係のことを考え続けてしまう人に、まず手に取ってほしい1冊です。
{※}

2.『反応しない練習』草薙龍瞬

職場で嫌なことを言われたとき、選択肢は二つだと思っていました。言い返すか、我慢するか。この本は、そのどちらでもない第三の選択肢を教えてくれます。「そもそも反応しない」という選択肢です。

著者の草薙龍瞬さんは僧侶で、ブッダの教えをベースにしています。といっても堅苦しい宗教書ではありません。書かれているのは、きわめて実用的な「心の使い方」です。

この本の核心はこうです。

怒りも不安も焦りも、外から自分に降りかかってくるものではない。相手の言葉や態度に自分が「反応」することで、はじめて苦しみが生まれる。つまり、反応しなければ苦しみは発生しない。

「反応しない」とは、無視することでも我慢することでもありません。心がざわついた瞬間に「あ、いま自分は反応しているな」と気づくこと。その気づきひとつで、感情に巻き込まれる時間がぐっと短くなります。

嫌なことを言われると何日も引きずってしまう人、怒りや悔しさを抑えられず後で自己嫌悪に陥る人。そういう人にとって、この本は「我慢」とはまったく別の道を見せてくれるはずです。
{※}

3.『畑村式「わかる」技術』畑村洋太郎

「なんであの人はわかってくれないんだろう」「何度言っても話が通じない」。その徒労感が、やがて「自分の伝え方が悪いのだろうか」という自責に変わっていく。そんな経験はないでしょうか。

著者の畑村洋太郎さんは「失敗学」で知られる工学の研究者です。本書は、話が通じないのは人間関係の問題ではなく、「わかる」という行為そのものに原因があるのだ、と教えてくれます。

キーワードは「テンプレート」。人はそれぞれ、自分の経験に基づいた知識の枠組み(テンプレート)を持っていて、それを通してしか情報を理解できません。同じ言葉を使っていても、あなたと上司ではテンプレートが違うため、まったく別の意味として処理されている可能性がある、というのです。

これを読んだとき、職場で感じていた「何でわかってくれないんだ」という苛立ちが、すっと引いていきました。相手が悪いわけでも自分が悪いわけでもなく、テンプレートが違うだけ。そう思えたことで、「わかってもらえない」孤立感がずいぶん軽くなったのです。

上司や同僚と話が噛み合わず悩んでいる人、「自分だけが浮いている」と感じている人に、ぜひ読んでほしい1冊です。
{※}

“我慢しなくていい”と教えてくれる小説

『それから』夏目漱石

実用書は「考え方」を変えてくれます。でも、小説には「感覚」を変えてくれる力があります。

漱石の『それから』の主人公・代助は、裕福な家の次男で、定職に就かず日々を過ごしています。世間から見れば、ひ「甘えている」男です。しかし物語を読み進めると、代助が社会のレールに乗ることを拒んでいるのは怠惰からではなく、社会が求める「正しい生き方」に対する根本的な疑いからだとわかってきます。そして物語の終盤、代助はある重大な決断を通して、社会的な安定を自ら手放す道を選びます。

職場の人間関係に疲れている人の多くは、「でも辞められない」「我慢するしかない」と自分に言い聞かせています。代助の選択は極端です。今すぐ仕事を辞めろという話ではまったくありません。でもこの小説は、「我慢して当然」という前提そのものを、静かに揺さぶってきます。

社会の期待に応え続けることだけが正解ではない。100年以上前に書かれた物語が、そのことを伝えてくれるのです。

読後に残るのは爽快感ではありません。もっと静かなもの。「自分の人生は自分で決めていい」という当たり前のことを、改めて腹の底に落としてくれるような、生きる覚悟のようなものです。
{※}

本だけで抱えきれないときは

考え方を変えることで楽になる部分は、確かにあります。今日紹介した本がそのきっかけになればと思います。

でも、環境そのものが合っていないなら、環境を変えることも立派な選択肢です。

もし一人で抱えるのが辛くなったら、オンラインカウンセリングで誰かに話を聞いてもらうだけでも、気持ちの整理がつくことがあります。「カウンセリング」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、今はスマホひとつで自宅から相談できるサービスがあります。まずは話すだけでも、と思って使ってみるくらいの気軽さで構いません。

また、今すぐ辞めるつもりがなくても、転職サイトに登録してみるという方法もあります。「自分には他にも選択肢がある」と知るだけで、不思議なくらい気持ちが軽くなる。逃げ場があると思えるだけで、目の前の仕事への向き合い方が変わることもあるのです。

本を読むこと、誰かに話すこと、環境を変えること。どれが正解かは人それぞれです。ただ、「我慢し続ける」以外の道があることだけは、覚えておいてください。
{※}

月曜の朝、少しだけ息がしやすくなるために

職場の人間関係は、簡単には変わりません。明日会社に行けば、苦手な上司も、噛み合わない同僚も、そのまま席に座っているでしょう。

でも、自分の頭の中の景色は、本1冊で少しだけ変わることがあります。

日曜の夜、あのエンディング曲が流れてきたとき、胃の重さが少しだけ軽い。今日紹介した本の中に、そんな1冊があれば嬉しいです。

タイトルとURLをコピーしました