「どうせ私なんか」が口癖になっていた頃の話
褒め言葉を素直に受け取れない。「すごいね」と言われても、「いやいや、たまたまだから」「私なんて全然」と反射的に否定してしまう。そんな経験はありませんか?
私自身、かつてはずっとその感覚に囚われていました。仕事で評価されても「次は失敗するかもしれない」と怯え、誰かに親切にされても「何か裏があるんじゃないか」と勘繰ってしまう。心のどこかで、自分には価値がないと思い込んでいたのだと思います。
「自己肯定感が低い」というのは、単に自信がないということ以上に、世界が敵だらけに見えるような、息苦しい感覚でした。
けれど、いくつかの本との出会いが、その凝り固まった考えを少しずつほぐしてくれました。劇的に性格が変わったわけではありません。ただ、「あ、自分を責めなくてもいいんだ」と、肩の荷を下ろすきっかけをくれた本たちです。
今日は、そんな「自分なんて」の呪縛から、私を少しだけ自由にしてくれた本を紹介します。実用書だけでなく、小説も1冊選びました。理屈ではなく、物語の力で救われることもあるからです。
自己肯定感が低い人に起きていること
自己肯定感が低い状態にあるとき、私たちは無意識のうちに自分を追い詰める「考え方のクセ」を持っています。あなたにも、こんな心当たりはありませんか?
■SNSを見ては落ち込む
他人のキラキラした投稿を見て、「それに比べて自分は」と勝手に比較してダメージを受ける。
■断れない
嫌なことでも、断ったら嫌われるんじゃないかという恐怖から「イエス」と言ってしまう。
■成功を自分の実力と思えない
うまくいっても「運が良かっただけ」と思い、失敗すると「やっぱり自分はダメだ」と過剰に自分を責める。
■人に頼れない
頼ることが申し訳なく感じて、限界まで抱え込んでしまう。助けを求める前に、心だけが擦り切れていく。
これらは、あなたの性格が悪いわけでも、能力が低いわけでもありません。ただ、「自分を肯定する回路」が一時的に錆びついているだけなのです。
風邪を引いたら薬を飲むように、考え方のクセには「別の視点」を取り入れることが効きます。まずは、理屈で心の仕組みを理解し、考え方の枠組みを変えてくれる実用書からご紹介します。
まず”考え方の枠組み”を変えてくれる3冊
1冊目:「嫌われる勇気」岸見一郎・古賀史健
自己肯定感に悩む人にまず手にとってほしいのが、アドラー心理学を対話形式で解説したこの一冊です。ベストセラーなので名前は知っているという方も多いかもしれません。
この本が画期的なのは、「自分を好きになろう」と精神論を説くのではなく、「課題の分離」という論理的なツールを授けてくれる点です。
私たちはつい、「あの人にどう思われるか」「期待に応えなければ」と、他人の顔色ばかり気にしてしまいます。しかしアドラー心理学では、「他人が私をどう思うかは、他人の課題であって、私の課題ではない」と切り捨てます。
私自身、この考え方に触れたとき、憑き物が落ちたような衝撃を受けました。「私がどれだけ気を遣っても、私を嫌うかどうかは相手が決めることなんだ」と気づいた瞬間、人間関係のプレッシャーから解放されたのです。
振り返ってみれば、自分の気持ちを押し殺して周囲に合わせてきたのに、それで「素敵な人」と評価されたかといえば、そんなことはありませんでした。嫌われることは避けられたかもしれない。でも、本当の意味で信頼されることもなかった。結局、他人の人生を生きている限り、自己肯定感は育たないのだと思います。
自分を好きになることの第一歩は、他人の人生を生きるのをやめること。そのための具体的な思考法が、この本には詰まっています。
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2. 『バカの壁』 養老孟司(新潮新書)
「自己肯定感の本」として紹介されることはまずない本です。でも、私にとってはこの本こそが「比べる苦しさ」から抜け出すきっかけになりました。
なぜ他人と比べて落ち込むのか。それは、自分と他人が「同じ土俵」にいると錯覚しているからです。解剖学者である養老孟司氏は、本書で「人間は、自分が知りたくないことに対しては情報を遮断する壁を持っている」と説きます。
人間にはそれぞれ脳の中に「バカの壁」があり、話が通じないのは当たり前、見えている世界が違うのは当たり前だと腹落ちさせてくれるのです。
自己肯定感が低い人は、「みんなと同じようにできない自分」や「普通になれない自分」を責めがちです。
しかし、私たちが「普通になれない」と悩むとき、その「普通」は一体誰の基準でしょうか。本書を読むと、そもそも「みんな同じ」という前提自体が幻想だと気づかされます。
「自分は自分、人は人」という当たり前の事実を、生物学的・解剖学的な視点から淡々と突きつけられることで、不思議と心が軽くなります。「わかってもらえない」と嘆くのではなく、そもそも違う生き物なんだから「比較しても意味が無い」と割り切る強さ。そのドライな視点は、過剰に空気を読んで疲れてしまう人にとって、頼もしい盾になってくれるはずです。
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3. 『自己肯定感の教科書』 中島輝(SBクリエイティブ)
「理屈はわかったけれど、具体的にどうすればいいの?」という方には、この本がおすすめです。著者は心理カウンセラーとして多くのクライアントを見てきた中島輝さんです。
この本の特徴は、自己肯定感をあいまいにせず、「6つの感(自尊感情、自己受容感、自己効力感、自己信頼感、自己決定感、自己有用感)」という要素に分解して解説している点にあります。
例えば、「失敗するのが怖い」と感じているなら「自己効力感」が下がっているのかもしれません。「自分には価値がない」と思うなら「自尊感情」が傷ついているのかも。今の自分がどの状態で、どこをケアすればいいのかが、まるで処方箋のようにわかります。
「瞬発的に自己肯定感を高める方法」や「長期的に育てる方法」など、今日からできるワークも豊富です。『嫌われる勇気』で視点を変え、この本で日々のメンテナンスをする。そんな使い方ができる、まさに「教科書」と呼べる一冊です。
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理屈じゃなく、物語の力でこれでいいと思わせてくれる1冊
ここまで実用書を紹介してきましたが、心が疲れ切っているときは、正論やノウハウさえも重たく感じることがあります。そんなときは、物語の出番です。
『贅沢貧乏』 森茉莉(講談社文芸文庫)
文豪・森鷗外の娘であり、晩年をアパートの一室で過ごした森茉莉のエッセイ的連作小説です。
幼少期は裕福な暮らしを送った森茉莉。しかし晩年は、古い木造アパートの一室で、決して豊かとは言えない生活を送っていました。客観的に見れば「没落」です。
ところが、この人はまるで自分を憐れまない。
お金はなく、着るものは古びていく。それでも彼女は、その中で誰よりも贅沢に生きています。彼女の美意識は、室内の隅々にまで行き渡っています。それは、洗ったタオルを干す際の色調のグラデーションにもこだわるほど。狭い部屋の中で、お気に入りの紅茶を淹れ、チョコレートを囓りながら、フランスの王侯貴族の没落生活と自分の暮らしを重ね合わせます。
美しいと思うものだけに囲まれて暮らす。世間の基準から見れば貧しい。でも森茉莉にとっては、それが最高に贅沢な暮らしなのです。
彼女の生き方には、他人との比較が一切ありません。世間の常識や「こうあるべき」という基準から外れて、ただひたすらに「自分の好きなもの」だけを信じて生きています。
自己肯定感が低い私たちは、「お金がないから」「地位がないから」「愛されていないから」自分には価値がないと考えがちです。けれど、森茉莉の文章に触れると、そんな条件付けがいかに無意味かを思い知らされます。
肯定感とは、何かを成し遂げた対価として得るものではなく、自分の美意識を信じ抜くこと――。
読み終えても、「よし、前向きに頑張ろう!」という気持ちにはならないかもしれません。その代わりに、「自分の好きなものを好きでいていいんだ」と、自分を許せるような開放感が残ります。
実用書が「頭」に効く本だとしたら、この1冊は「心」に効く本です。
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本だけで抱えきれないときは
本を読むことは、自分の心と向き合うかけがえのない時間です。でも、もしも今、自己肯定感の低さが原因で、朝起き上がるのがつらかったり、仕事に行けなかったり、眠れない日々が続いていたりするのなら、本だけで解決しようとせず、専門家の力を借りることも選択肢に入れてみてください。
「カウンセリング」と聞くと大げさに感じるかもしれません。でも最近では、わざわざクリニックに足を運ばなくても、自宅からスマホひとつで気軽に相談できるオンラインカウンセリングが充実しています。「話を聞いてもらう」というだけで驚くほど心が軽くなることもあります。
本を選ぶように、あなたに合った専門家を探してみる。その選択肢を一つ持っておくだけでも、「いざとなったら頼れる場所がある」という安心感が、日常の支えになってくれるはずです。
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“自分なんか”の呪いを解く最初の一歩
「自分なんか」という口癖は、長い時間をかけて心に染み付いたものです。だから、今日明日ですぐに消えるものではないかもしれません。
でも、本の中に新しい視点を見つけるたびに、その呪いは少しずつ薄くなっていきます。
「他人の課題を背負わなくていい」「みんな違って当たり前」「自分の美学で生きていい」——今回紹介した本たちは、
それぞれ違う角度から、同じことを教えてくれています。
「自分なんか」が口癖だったあの頃の私が本に救われたように、今回紹介した本の中に、あなたの心を軽くする一節があればうれしいです。気になった一冊だけでも、ぜひ手に取ってみてください。
